二人して黙《だま》りこくっているのに耐《た》えかねて俺はそう訊《き》いてみた。長門有希は返事の代わりにハードカバーをひょいと持ち上げて背表紙を俺に見せる。睡眠薬《すいみんやく》みたいな名前のカタカナがゴシック体で躍《おど》っていた。SFか何かの小説らしい。
「面白《おもしろ》い?」
長門有希は無気力な仕草で眼鏡《めがね》のブリッジに指をやって、無気力な声を発した。
「ユニーク」
どうも訊かれたからとりあえず答えているみたいな感じである。
「どういうところが?」
「ぜんぶ」
「本が好きなんだな」
「わりと」
「そうか……」
「……」
沈黙。
帰っていいかな、俺。
テーブルに鞄を置いて余っていたパイプ椅子《いす》に腰《 》を下ろそうとしたとき、蹴飛《けと》ばされたようにドアが開いた。
「やあごめんごめん! 遅《お》れちゃった! 捕《つか》まえるのに手間取っちゃって!」
片手を頭の上でかざしてハルヒが登場した。後ろに回されたもう一方の手が別の人間の腕《うで》をつかんでいて、どう見ても無理矢理連れてこられたと思《おぼ》しきその人物共々、ハルヒはズカズカ部室に入ってなぜかドアに錠《じょう》を施《ほどこ》した。ガチャリ、というその音に、不安げに震《ふる》えた小柄《こがら》な身体《からだ》の持ち主は、またしても少女だった。
しかもまたすんげー美少女だった。
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