PFAOSプロローグ 「偉大なる旅へ」
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文: 霧生るい 監修: arohaJ
それは、6度目の航海のことだった。
アラネア諸島からの帰路で星煌海を航行中、海賊船に襲われる紫帝国のジャンク船に遭遇した。紫帝国の船は手負いで、今にもやられてしまいそうだ。
「紫帝国の旗……襲撃しているのはおそらくルナスの私掠船ですね。どうします、王子?」
「助けよう。紫帝国は金持ちだ。借りを作っておこう」
俺たちは全速力でルナスの私掠船に追いつき、取りついた。
合図と共に砲の音が轟く。
海賊は退治したものの、紫帝国の船は船体の損傷が激しく、海賊にやられた犠牲者たちと共に海中深く沈んでいった。
生き残った者は皆、俺の船に乗っている。
「感謝する……余はランレイ、紫帝国の血脈に連なる者だ」
何で紫帝国のお姫様がこんな海の上にいるんだ?
いや、俺も人の事を言えたもんじゃないが……
「俺はカイル。ハイペリア帝国の王子だ。見て分かる通りこんな感じだ。礼儀作法は気にしないでくれると、こっちも助かるんだけど……えーと、ランレイ公主?」
「ふふっ、命の恩人を無礼討ちになどできようものか。余のことはランレイと呼んで欲しい」
「なら、俺もカイルで」
ランレイは生き残った人たちを見て言った。
「これで全員か……? この状況ではもう東に進むことも叶わないだろう」
「助かっただけでも運がいい。俺達が来なけりゃ全滅だった」
彼女の言葉には、悔しさと無念に溢れていた。
「……ハイペリア帝国は紫帝国の西の国だったと記憶しているが、カイルは何故ここに?」
「イーストランドに現れるっていう黄金の鯨を探しに来たんだ。見つからなかったけどね」
てっきり笑われると思ったが、ランレイは真剣に聞いてくれた。
慣れない反応につい冗談を口にしてしまう。
「そういうランレイはどうして海に? 東に向かっているようだったけど、まさか新大陸を探していたのかい?」
「然り」
「そうだよね、そんなわけないよね……へ? 今、何て?」
ランレイは言った。
「余は新大陸……星明かりの大地に向かっていたのだ。紫帝国を救うために」
それが俺の——いや、俺たちの新大陸への冒険の始まりだった。
***
ランレイたちを助けた後は特に大きな問題もなく、ハイペリアへと帰還することができた。
途中で紫帝国に寄港し、助けた人たちの大半を下ろしたが、ランレイはハイペリア帝国に護衛と共に同行することを望んだ。
そして、今。俺たちは首都ハイロックで賢帝アゼルスタンと謁見している。
ランレイは救助に対する御礼を述べた後、紫帝国の現状について語った。
紫帝国は長きに渡る皇位継承争いで混沌を極めており、西のルナス帝国とも衝突が続き、危機的状況にあるという。
皇位継承における彼女の序列はそれほど高くない。
今の自分の力では解決できないと判断した彼女は、紫帝国の古の伝承に望みをかけようとした。
そこで星明かりの大地、すなわち新大陸が登場する。
「紫帝国を救う力が、新大陸にある」
ランレイは家臣に指示し、大振りの箱を運ばせた。その中から現れたのは見たことのない輝きの星光石だった。
「これは我が紫帝国の家臣が新大陸より持ち帰った星光石、この純度を超えるものが新大陸に存在する」
アゼルスタンの家臣の一人が星光石を検めると皇帝に伝えた。
「本物です......!ファロスの鉱脈でもこれほどの星光石は見つからないでしょう」
他に類を見ない星光石と新大陸の話に謁見の間はざわついた。
「エルノール、ガスタリアとも足並みを揃える必要がある」
即答はできない。というのがアゼルスタンの回答だった。
それを遠回しの拒絶と受け取ったランレイは落胆した様子だった。
アゼルスタンは、急に俺に話を振ってきた。
「カイルよ」
「はい」
「此度の活躍、見事であった。汝は航海に出るたびに幸を運んでくる。次の航海は何処に向かうのだ?」
次の航海……ああ、そういうことか。
「今回は収穫が少なかったので、次も東に行く予定です。なるべく早く出航したいと考えていますよ」
その時、静寂を引き裂くように急報が飛び込んできた。
「報告します! カルマリアにアステラの海上戦力が集結しつつあります!!」
***
アステラ帝国に対する緊急会議が行われることとなり、謁見は終了した。
急を要する事態だけに会議は長引くだろう。次の謁見の目処は立ちそうになかった。
俺とランレイは造船都市ハーレフで出航の準備を行なっていた。
「カイルよ。本当に大丈夫なのか?」
「アゼルスタン帝には謁見の時に伝えたから大丈夫だよ。ウチは兄達が優秀だからね。俺の好き勝手は父親公認というわけだ」
王が謁見の場で次の航海についてわざわざ聞いたのは、俺がどう動くかを確認するためだ。俺はそう捉えている。
それにハイペリアが国として協力する、しないに関係なく、俺の答えは初めから決まっていた。
「俺個人として協力させてもらうよ」
出航の準備はすぐに整った。さすがは俺の船の乗組員たち。6度の航海を共に乗り越えた猛者たち。
俺たちは最初の目的地、白桜国を目指してハーレフを出航した。
「白桜国はガスタリアと国交があるんだ。ガスタリア王と会うといつも楽しそうに話すけど、俺は行ったことがないんだ、楽しみだな」
「余も白桜には行ったことはないが……美しい国と聞く」
出航してしばらくすると、遠くに船団が見えた。
「あれは……エルノール王国の船だね」
「カイルよ、あの信号は何だ?」
「停船しろってさ」
面倒だな……北方航路はさっさと抜けてしまいたいのだが。
「指示を出さんで良いのか?」
「いい風も吹いているし、無視して直進するか?」
「……よさぬか」
しぶしぶ停船させると、エルノールの船から精霊族の一団がやってきた。
その中に、懐かしい顔があった。
「リーリア! まさか君だとは思わなかった! 何年振りかな? 元気かい?」
「……カイル、貴方のそういうところは直っていないんですね。まずは公主に挨拶をさせてもらいたいのですが良いでしょうか?」
相変わらず真面目だ。変わっていなくて安心した。
「お初にお目にかかりますランレイ公主。私はエルノール王国の王女リーリアと申します。ハイペリア帝国、アゼルスタン帝より書簡を預かっております」
書簡は要約するとこのような内容だった。
ハイペリア同盟三国は、全面的にランレイに協力する。
ハイペリアからはカイル王子が、エルノールからは艦隊を支援し、ガスタリアからは国交のある白桜国で補給が受けられるよう手配する。
「エルノール王ヴィエリオンの名代として、私も旅に同行いたします。」
それを聞いたランレイは、感極まりこう言った。
「……ハイペリア同盟三国の協力に感謝する」
その後、リーリアは当面の打ち合わせのために俺の船に残った。
「私もいずれ国の責任を負いたいと考えています。是非勉強させてください」
「余にできることがあれば、協力は惜しまない。紫帝国では同じ様な立場の者と話すことは少ないのだ。貴女の話を聞かせてもらえるか」
「ええ、もちろん」
ランレイとリーリアは上手くやれそうだ。
「新大陸までは長い旅になる……あらためてよろしく頼むよ」
***
その夜、航海日誌をつけていた俺は、ふとガスタリア王と初めて航海に出た時のことを思い出した。
見たこともない土地、動物、文化、脅威、すべてが最高の体験だった。
「新大陸か……早くこの目で見たいもんだ」
まだ見ぬ世界に思いを馳せながら、俺は航海日誌の1ページ目をこう締めくくった。
——賢帝アゼルスタンの子 航海王子カイルの偉大なる旅が始まる。
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