PFAOSプロローグ 「沈まぬ星の光」
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文: 霧生るい 監修: arohaJ
4年前——ハイペリア領、銀貨街道の戦い。
開戦当初、ハイペリア侵攻作戦は順調だった。
アステラ帝国は船でハイペリア南の半島から上陸、海峡の都市モルガンを落とし、勢いのままに北上した。しかし、首都ハイロックを目前にしたところでハイペリアが魔法師団を導入し、形勢は逆転する。
一人の魔法使いによって、戦場に太陽が落とされた。
その後、「日の魔法使い」と呼ばれるハイペリアの魔法使い。
彼はアステラ帝国の魔法研究において不可能と言われた戦略魔法の使い手だった。
幾度となく放たれる戦略魔法に為すすべなどあるはずもなく、アステラ帝国は敗戦を重ねることになる。占領した領地を全て奪還され、上陸地点まで押し込まれた。
世に永遠に続くものなどない。
アステラ帝国建国から続いた不敗神話が終わろうとしていた。
「で、どうする? 戦って玉砕か? 逃げて極刑か? 降伏って選択肢はないよな?」
「……俺に策がある」
アステラ帝国の残存部隊の選択は転進だった。
それを一網打尽にしようと、日の魔法使いは戦略魔法の準備に入る。
魔法が完成する寸前、俺は錯視の魔法を解除して日の魔法使いに飛びかかった。
「敵将?!……なにを?!」
「地獄までつきあってもらうぞ!」
俺の策とは、星光石に多重干渉することで魔法を暴発させ自爆させることだった。
そして、極光が戦場に広がって——俺の時間は静止した。
気がついたとき、周囲に日の魔法使いの姿はなかった。
魔法発動の妨害には成功したようだが、反動で吹き飛ばされたらしい。
「大将!! おい!? しっかりしろ! こいつは……どうなってやがる?! 撤退だ!」
運良く部下に発見されたところで俺の意識は途絶え、目覚めた時はすべてが終わった後だった。
アステラ帝国の残存部隊は撤退に成功した。ハイペリアは追撃をせずに軍を引いたという。
その後ハイペリア帝国は、隣国エルノール、ガスタリアとの三国同盟を締結。
アステラ帝国はハイペリア侵攻作戦の見直しを余儀なくされた。
あの戦場から生還できたのは奇跡と言えよう。
だがそれ故に、俺が払った代償は大きかった。
低い視界。貧弱な力。俺の身体は、少年のようになっていた。
俺はこの呪いを解く方法を捜し求めたが、如何なる医療も魔法もこの呪いに打ち勝つことはできなかった。
世に永遠に続くものなどない。
だというのに、あの時から俺の時間は止まったままだ。
***
久々に夢をみた所為で、目覚めは最悪だ。
大きすぎるベッドから抜け出して、朝の支度を整える。
この身体になってからというもの、着替えや湯浴みは一人で行っている。
それまでは周囲の目など気にしたことはなかったが、今は不快で我慢できない。
メイドを何人か首にして、自分でやったほうが良いという結論に至った。
朝食を済ませ、今日の予定を確認すると来客を告げられた。
応接間には軍服を着た獣人の女が、座りもせずに待っていた。
見覚えがある。あれはいつだったか、御前試合で百人の戦士を屠り、皇帝直々に騎士に召し上げられた剣闘士。そうだ、確か名は——
「アリーナ領の侯爵ベルナルダと申します、アーロン閣下。新大陸調査隊に加わるよう陛下の命を受け、本日到着しました」
彼女に着席するよう手で指示し、自分の席に腰掛けた。
「到着が遅れたようだな。何かあったのか?」
「申し訳ございません。航海中に夜襲を受け、旗艦を含む数隻を失いました」
彼女の報告によれば、星光島付近で攻撃を受けたそうだ。周辺を哨戒したが、敵の船は発見できなかったという。
「人的被害はありません。ですが、物資を少なからず失いました。詳細は報告書をご覧ください」
「結構。休息は必要か?」
「お心遣い感謝いたします。しかし、我らアリーナの戦士に休息は不要です」
俺は、本題に入ることにした。
「卿には自軍の独立指揮権を与える。これは本作戦に参加する他の諸侯と同格の権限だ」
アステラ帝国の基盤は徹底的な実力主義だ。それは皇帝から国民、果ては奴隷にいたるまで例外はない。他者より優れたものが支配し、劣っているものは支配される。
それ故に、格付けを行いたがる。もはや国民病だ。指揮官を同格の扱いにするのは必要な措置だった。
「申し訳ございません。私は指揮権を返上いたします」
「何……?」
「私は戦うことでのみこの地位を得ました。故に指揮官としてよりも剣として、私を最大限活かせる方に指示をいただきたいと思います」
「そんな者がどこにいる? ここには片手で突き飛ばせるような小僧がいるだけだ」
「閣下が積み上げた武功は私の耳にも届いております。私は閣下の指示に従います」
なおも食い下がる彼女に、私は一つ質問をぶつけた。
「一つ聞かせてくれ。卿は、何故この調査隊に参加した? それが皇帝陛下の命令だからか?」
「そうです。他の如何なるものも私の理由足り得ません」
「大した忠誠心だな。気に入った。卿がいれば陛下と共にあるようだ。これほど心強いものはない」
調査隊に参加している者には、個の思惑がある。
「俺には俺だけの目的がある。卿も好きにするがいい」
***
俺はベルナルダを伴って港にやってきた。
本日は新大陸への案内人として雇った冒険者と顔合わせの予定だ。
カルマリアの港にはアステラ各地から軍艦が集結していた。帝国傘下のサフィロ王国、アルセローナ王国の旗も掲げられている。アステラ帝国を象徴するかのような大艦隊だ。しかし、あの戦いを経験した俺には、それが見かけ倒しに見えてならないのだ。
待ち合わせ場所に到着すると、帽子をかぶった男が声をかけてきた。
「公爵閣下におかれましてはお変わりなく……本当にちっとも変わってないな」
その声、その態度。
征服者の異名で恐れられる俺に対して、こんな口がきける者は一人しかない。
さておき、不敬は不敬である。
俺は、冷え切った声でベルナルダに言った。
「ベルナルダ、最初の命令だ。ヤツの首をはねろ」
「御意」
「わー! 待て待て!! 冗談! 冗談だよ。昔馴染みの軽口で殺されちゃあ堪らん」
「この人選も陛下の采配か?」
「誰に言われたからじゃないさ。ここにいるのは俺の意思だよ。また会えて嬉しいぜ、大将」
彼はエルナンド。かつての部下でハイペリア遠征を共に戦った戦友だ。
遠征の後、突然軍を抜けて冒険家に転身したと聞いた時は耳を疑ったが、本当だったらしい。
「しっかし、今頃ハイペリアの連中は大慌てじゃないのかねぇ?」
「どうかな……この程度で慌てるようなら、あの戦いで俺達は勝利していただろう」
エルナンドも分かって言っているのだろう。
ハイペリアには、あの男がいる。
「星明かりの大地、あると思うか?」
「あって欲しいね、そのほうが面白いだろう?」
「遅れていた物資搬入も日の入りまでには完了、ここはダメ押しでパレードでもやって派手に出航しましょうか? ね? 大将」
「そんな時間はない。出航は明朝だ。星が沈まぬうちに出るぞ」
俺たちはアステラ帝国の繁栄に永遠をもたらすために、新世界へ向かう。
まだ見ぬ大地に、この呪いを解く手がかりはあるだろうか。
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