小王子 第二章 羊(十九)
つまり、こういうことだ。王子様の星には、ほかの星と同じように、良い草と悪い草があった。良い草は良い種(たね)から育ち、悪い草は悪い種から育つ。しかし、種は目に見えない。土(つち)の中でひっそりと眠っている。その一つが気まぐれに目を覚ます(めをさます)と、伸び(のび)をしておずおずとあどけない小さな茎(くき)を太陽に向かって伸ばし始める(伸ばすーのばす)。それが赤蕪(あかぶ)や薔薇(ばら)だったら、そのままにしておいて構わない。でも、悪い草だとわかったら、すぐに抜き取らなくてはいけない。王子様の星には、そんな恐ろしい(おそろしい)種があった。バオバブの種だ。
小王子 第二章 羊(二十)
星の土は、何処(どこ)もあそこもバオバブの種だらけだった。少しでも抜くのが遅れると、バオバブはもう手が付けられなくなる(手が付けられない)。星全体を覆いつくし(覆うーおおう)、根っこ(ねっこ)が突き抜け(突き抜けーつきぬけ)、穴(あな)を開けてしまう。小さな星だと、殖えすぎた(殖えるーふえる)バオバブで、破裂(はれつ)してしまう。
「決まりに出来るかどうかだね。毎朝、自分の身支度(みじたく)が済んだら、星の手入れに取り掛かる。芽(め)を出したばかりの薔薇とバオバブはよく似ているんだけど、それを見分けて、バオバブだと分かったら、すぐに抜いてしまう。手間(てま)は掛かるけど、とっても簡単なことだよ。」
小王子 第二章 羊(二十一)
「偶には(たまに)仕事を後回し(あとまわし)にしても大丈夫な時ってあるけど、バオバブでそんなことをしたら、取り返し(とりかえし)がつかなくなるんだ。(取り返しがつかないー無法挽回)例えばね、ある星に、怠け者(なまけもの)が住んでいたんだけど、その人は三本(さんほん)のバオバブをほったらかしにしていたばかりに...」
僕は、王子様の話す通りに、その星の絵を描いた。星より巨大(きょだい)な三本のバオバブと途方に暮れる(とほうにくれるー方法や手段が尽きて、どうしてよいか分からなくなる)怠け者。
お説教(せっきょう)臭い(くさい)ことを言うのはあんまり好きじゃないけれど、バオバブの脅威(きょうい)は地球ではほとんど知られていないし、小惑星で道に迷った人が危険な目に遭う可能性はあまりにも大きい。だから僕は、一度だけ普段(ふだん)の慎み(つつしみ)を忘れて、こう言っておこう。
「おい、子供たち、バオバブに気を付けろう。」
小王子 第二章 羊(二十二)
僕は友達に警告(けいこく)を与えるために、一生懸命この絵を仕上げた(仕上げるーしあげる)。苦労して描いた価値はあった。他はこれほどうまくいかなかった。バオバブを描いた時は、切羽詰って(切羽詰るーせっぱつまる)、気持ちが高ぶって(高ぶるーたかぶる)いたのだ。
ああ、小さな王子様、こうして僕は少しずつ、細やかで憂鬱(ゆううつ)な君の人生を理解していった。長い間(ながいあいだ)、君には美しい夕日(ゆうひ)しか心を慰める(なぐさめる)ものがなかったことも。
僕がこの秘密を知ったのは、四日目(よっかめ)の朝、君がこう言った時だ。
「僕、夕日が大好きなんだ。夕日を見に行こうよ。」
「でも、待たなきゃね。」
「待つって、何を?」
「日が沈むのをさ。」
小王子 第二章 羊(二十三)
君はとてもびっくりしたようだった。そして、すぐに笑い出した。
「僕、まだ自分の星にいるつもりになっていたよ。」
「そうだね。」
誰もが知っているように、アメリカが正午(しょうご)の時には、フランスは夕暮れ(ゆうぐれ)だ。だから、一分でフランスに飛んでいけたら、夕日を見ることが出来るけど、残念ながら、フランスは遠すぎる。だけど、君の小さな星では、本の少し椅子を動かす(うごかす)だけでいい。そうすれば、見たい時にいつでも黄昏(たそがれ)を眺めていられる。(眺めるーながめる)
「僕ね、一日に44回も夕日を見たことがあるよ。」
そう言って、暫くしてから、こう付け加えた。(付け加えるーつけくわえる)
「ね、悲しくてたまらない時って、夕日が恋しくなるよね。」
「44回も夕日を見た日は、悲しくてたまらなかったのかい?」
しかし、王子さまは答えなかった。
何処(どこ)も彼処(あそこ)も
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