セリフ
「あのさ。俺はなんでも簡単にするって言ってたけど、それはちがうと思うよ。ただチーが、」 「いいよもう」
上がりがまちにいるわたしと、一段低い玄関に立つ藤田君だが、藤田君のほうがまだ背が高い。いつも見えるのはのどぼとけあたりだが、今は尐し目を上げるだけで視線が合う。 何度もこの角度で彼を出迎えたり、見送ったりした。
自分が作ってしまった沈黙に耐えられず、最後を湿っぽくしたくなかったわたしが、 「じゃあね」
と笑顔で手を振ると、
「じゃあね」
と彼は返した。
「連絡しないほうがいいね」
「できれば、そう」
「じゃ、そういうことで」
心では、ちがうちがうと叫んでいる。
元気でねえ、と問のびした声でわたしは藤田君を見送った。
引き戸が閉められると、足音はすぐに聞こえなくなった。あとを追おう、と思ったが、足が前に出なかった。
行くところがあるって、いったいどこなんだろう。
居間に入ると、吟子さんが湯飲みを前にテレビを見ていた。向かい合ってこたつに入ると、ほらね、という顔で目を見開いて見せた。
「何その顔」
わたしはこたつに入って、なんでもないふうに新聞を広げた。そのあいだ、吟子さんがこっちを見ているのはわかっていて、いらいらした。
「聞いてた?」
「何が?」
「聞いてたくせに」
吟子さんはこんなときでもふふふと笑って、言う。
「人っていやね」
「……」
「人は、去っていくからね」
彼女は沸騰しているやかんの火を止めに行った。台所の椅子に、チェックのネルシャツがかかっている。秋口、藤田君が忘れていったのを寒いときに吟子さんが着ていた。
吟子さんは指差すと、
「これ忘れたね。どうするの」
と尋ねた。何十もの言葉が頭の中で混ざり合ったが、出てきたのは、「知らない」の一言だった。
参考译文“哦,你说我什么都很简单地对待,不是那样的。只是阿知——”
“不用再说了。”
我站在门口的木横档上,藤田站在低一块的玄关,还是比我高。平时我只能看到他的喉结,今天稍稍一抬眼,就能和他对视了。我多次在这个角度迎送过他。
我受不了自己制造出的沉默,不想伤感地分手,便笑着摆摆手说:“再见吧。”
“再见吧。”他也说道。
“不跟你联络比较好吧?”
“可以的话。”
“那就这样吧。”
我心里却在喊叫着:不要这样,不要这样。
“保——重——啊。”我拖长了声音朝着他的后背说道。
拉门关上后,脚步声很快消失了。追上去吧,我心里想,腿却立在原地没动。
他说还要去个地方,到底要去哪儿呢?
走进起居室,吟子正坐在被炉前喝茶看电视。我在她对面一坐下,就冲她做了个怪样。
“怪吓人的。”
我若无其事地拿起报纸看起来。意识到吟子一直在看我,我就沉不住气了。
“你都听见了?”
“听见什么?”
“净装傻。”
吟子这种时候还呵呵地笑着说:“人真讨厌啊。”
“……”
“人早晚要走的。”
水开了,她起来去关火。厨房的椅子背上搭着藤田的格子长袖衫,入秋时藤田忘在这儿的,吟子冷的时候穿穿。
“这衣服怎么办?”吟子指着衣服问。
几十种回答在我脑子里闪现,最后却只说出了句“不知道”。
本期监制: 日语之声
本期小编: 沫 言
本期主播: 小 妖
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